以前にも書いたが、手術前後の約2週間は完全寝たきりだった。一度も立ち上がるどころか、体を起こすこともしていない。特に手術前の4日は、横に向くことも出来ず完全上向きでいるしかなかった。2週間とはいえ寝たきりの状況は私にさまざまな変化をもたらし、普段の生活では気づかない苦労をさせられた。言い換えれば数十年早く寝たきり生活を先取りして体験できたとも言えるかも知れない。ここで寝たきり生活の一部を紹介したいと思う。
<食事>
手術前に見たビデオで、寝ながらの食事は以下のようにすると教わった。
・食器は枕の脇に置く。
・体を横向きにして食べる。箸は横向きで使うのは難しいのでスプーンを使うと良い。
・お茶や味噌汁、スープ類はストローで飲む。
私は手術前も10日ほど寝たきりだったので、食事の仕方は入院直後に教えて欲しかったと思った。このビデオを見た入院7日目にはすでに、私の寝ながらの食事のテクニックはかなりのレベルになっていた。なぜなら私の場合、手術前の4日間は横向きにもなれず仰向けで食事をしたぐらいである。完全にビデオ以上だった。それでは私のテクニックを紹介しよう。
・食器をベッド脇にあるテレビ台備付のトレーに置いておく。(トレーは視線より高いため食器に何が入っているか分からない。)
・食器を一つ左手で取り、顔の上に持ってくる。(私からは皿の底しか見えない。)
・右手に箸を持ち顔の上で、箸を皿に入れて食べ物をつまみあげる。
・汁気があるものかどうかを見極める。
・汁がたれないことを確認したらそれを口に運ぶ。
仰向けで箸でご飯をつまむと、箸の裏側でつまむことになる。(ちょっと説明が難しいので、実際に試していただきたい。)
これははじめ違和感があるが、慣れると何とかなった。
今思うとこの食べ方は、箸だからこそ出来る食べ方だ。スプーンではすくえないし、ナイフやフォークでも当然無理だろう。
なれてきた頃には皿の中は見えなくても、箸の先でどんな食べ物か大体予想がつくようになっていた。私は天才かと思いたいが、私が特別な箸使いというわけではないだろう。日本人ならみんな出来ることだと思う。これは世界に誇れることではないだろうか。
<視界>
寝たきりの者にとって、何が見えるかは非常に大事だ。私は4人部屋の廊下側だったためベッドから見た窓の風景は、結露した窓越しに見える空と、隣の病棟の建物の壁だけだった。寝たまま入院した私にとって、病院内のレイアウトどころか方角さえ分かっていなかった。外が見えないのはかなりつらいものがある。この時期新潟では寒冷前線の通過などかなり激しい気象現象が発生し、それを見るのもこの時期の楽しみの一つだ。しかし23度に調整された病室内からは外のそのような激しい現象をほとんど感じることができなかった。やはり外を見て人や車の動きが見えると言うのは気象現象を見るだけではなく、一般社会から隔離されているような感じを少しでも緩和するには必要だと思うのだった。
<テレビ>
病室の各ベッドには、引き出しがついたテレビ台とテレビがセットになってついていた。以前入院したときはテレビ自体がレンタルだったため私はラジオですごしたが、今回はテレビカードを買うだけで見れたので良くテレビを見た。痛みがある程度のレベルになると活字を見ても殆ど頭に入らない。その点は受動的に情報が入ってくるテレビは、気力を使わないし、気もまぎれるので痛みにも耐えやすい。
入院した直後Cさんから私は割り箸をもらった。Cさんいわく「この割り箸はご飯食べるときに使っちゃだめだよ。テレビのチャンネルをかえるとき専用だからね。これちょうどいいんだよ。」割り箸をもらった時私はまだ横になって手を伸ばせばテレビに手が届いたのであまり使わないなと思ったが、とりあえずもらっておいた。しかしその重要性に気づいたのは、上向きだけの生活になってからだ。上向きでは後20cmほど届かないのだった。そこで割り箸を手に持ってやると非常に都合が良かった。割り箸程度の大きさはかさばらないし非常に良かった。
私は手術が終わって立ち上がったとき、新しく入院してきた若者にその割り箸をあげてきた。その若者はまだ歩けたので私と同様その重要さ便利さに気づいていないようだったが、手術の直後はその重要性を認識したに違いない。
<体の変化>
ずっと寝たきりだった時、NASAのボランティアでもしたら良かったと思った。前何かでNASAでは宇宙飛行士の体の変化を地上で調べるためボランティアの人を寝たきりにして体の変化を調べるという話を聞いたことがあったからだ。正確に記録していたわけではないので詳細に語ることはできないが、自分自身で認識できる2点の変化があった。まず足の筋肉が直ぐにぷよぷよになってきたことだ。これも前に入院したときにも同じ状況になったので驚かなかったが、あまりいい感じはしない。仰向けになった状態で膝を立てて膝を曲げるとかかとがお尻についてしまうのだった。普段ならふくらはぎや腿の裏側の筋肉が邪魔をしてくっつくはずはないのだが、簡単につくようになっていた。後深く呼吸ができないようになってしまった。はじめは気にしていなかったが、だんだん呼吸の度に自分自身の体の重さを感じるようになっていた。
昔、長期入院患者がストローのようなものを加えて球を吹き上げるおもちゃのようなものを使って、呼吸を鍛えているのを見た事があるが、確かに寝たきりが長期間続くと呼吸する力が弱るような気がした。また仰向けのままになって寝返りを打てなくなると、上半身全体に筋肉痛のようなものが発生し大変だった。あくびをしようとするとまず深く息を吸い込むが、そのときに痛くて苦労した。
私の場合はまだ比較的若いため、床ずれとまではいかなかったが、これがもう少し年を取って体力が衰えていたらさらにつらかっただろうと思うのだった。
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(2004.1.15)