よそのお婆さんとの生活−その2

<エピソード2> 幻の高級メロン

以上のような戦いを繰り広げてはいたが、お婆さんは私にいろいろな食べ物を与えてくれたことは、東京に一人でいる私とって少し有り難かった。しかし本当に気持ちは有り難かったが、それらのほとんど、口に合わないあるいは口に出来ないものばかりだった。(断っておくが私は好き嫌いはまったくない。)

お婆さんは、いつも何か用事があると、階段の登り口まで来て、「ちょっとー」と私を呼ぶのであった。しかし私を呼ぶ時は大抵何か文句がある時が多かったので、呼ばれるとドキッとするのであった。

ある時、いつものように一階から私を呼ぶ声がした。
「あなたメロン好き?」
「好きですよ。メロンって美味しいですよね。」
「ああよかった。今日外に出たらおいしそうなメロンがあったんで高かったけど買っちゃったのよ。丁度よかったわ。あなたにこれあげるわ。」
私は、メロンが食べきれずにおすそ分けしてくれるものと思い、いそいそと急な階段を普段より早く降りていった。しかし、下に降りてみると、私の期待は見事に裏切られた。私の目の前に差し出されたものは、高級メロンではなく、ガラスの容器に入れられたオレンジ色っぽい緑で、ちょっと黒ずんだ液体だった。1階は薄暗いせいもあって、私はそれが何だかさっぱりわからなかった。 (明るくても分からなかったと思う。)
「何ですかこれ。」
「メロンの種って普通食べずに捨てるでしょ。でもメロンがとても美味しかったのよ。だから捨てないで布巾で汁を絞ってみたのよ。絶対美味しいはずよ。飲むでしょ。あなたにあげるわ。」

私はこの時、絶対に冗談だろうと思った。でも冗談ではなさそうである。私は後で飲みますといってとりあえず、それを受け取った。もちろん後で捨てた。その液体がなぜ黒ずんでいたかは謎である。

※冷静に考えると、嫌がらせを受けていたとも考えられなくもないが、私が喜ぶと思っての行為だと思う。


<エピソード3> パイナップルの煮物

ある日私が学校から帰ると、お婆さんがたまたま台所にいて立ち話になった。私の部屋は台所を通らないと、行けないのである。だから、夕方など早く帰ると、お婆さんと顔を合わす機会は比較的多かった。

「わたしね、パイナップルが好きなのよ。」
「そうなんですか。果物がお好きなんですね。」
「そうなの。でもこれ見て。」
彼女は冷蔵庫から黒ずんだパイナップルを取り出して、私に見せた。
「私パイナップル買ったの忘れちゃったのよ。さっき気付いたんだけどこれみてみて。」
既にパイナップルは、黒ずんでいて底の方は汁が出ていた。
「それはもうだめですね。」
「そうよね。残念だけど捨てるわ。」

それから数時間後、お婆さんが下から私を呼ぶ声がした。
「あなたパイナップル好き?」
「ええ。好きですよ。」
「じゃあこれ食べるでしょ。」
私は、さっき腐ったパイナップルを見せられたばかりなので、パイナップルの缶詰でも開けたのかと思いながら、また暗い急な階段を急いで降りていった。しかし私の期待は、いつものように簡単に打ち砕かれた。私に差し出されたものは・・・。

「実はねパイナップルを煮てみたの。私はもういいからあなた食べない?」

それは明らかに先ほど捨てるといっていたものだ。
醤油で煮たということで、全体が茶色っぽかった。腐った色を醤油でカモフラージュしたと考えられなくもなかったが、おそらく先ほどの会話を忘れてしまったのだろう。
私は、その場でそれを食べずに後で頂きますということで、皿を受け取りその場をあとにした。もちろんそんなものは食べられるはずもなく、捨てさせてもらったのであった。


<エピソード4> 壮大な時間スケール

私も年寄りに育てられたようなものなので、お年寄りと話をするのは嫌いではなかった。ほとんど私は聞き役なのだが、週末など2,3時間聞く時もあった。大概は何人かいる彼女の息子がいかに優秀かという話がほとんどで、新しい話題は少なく、ほとんど聞いたことのある話ばかりであった。

しかしある時私の知らない話が始まった。どうも知り合いのAさんが家を訪ねて来たような話である。Aさんは、ある日スイカをお土産にお婆さんを訪ねて来たそうである。そのスイカは甘くてとても美味しかったという話であった。そのスイカがある店の袋に入っていた等、かなり詳しい内容であった。最近誰かがこの家を訪ねた話なのだろうと私は思った。

一通り話しを聞いたあと、私は質問した。
「そのスイカどこで買ってきたんですかね。駅前の八百屋にスイカ並んでますよね。」
「あらそうなの。」
「でも夏は冷えたスイカうまいですよね。」
「そんなに冷えてなかったけど美味しかったわよ。」
「半分に切れば冷蔵庫は入りますよね。」
「冷蔵庫なんてないにきまってるでしょ。」
どうも話しがかみ合わない。

「何でですか?」
「だってあなた、Aさんがうちに来たのは、地震の前よ。」
「地震っていうと?」
「関東大震災よ。知ってるでしょ。」
「もちろん知ってますけど。」

彼女は、その後また関東大震災の時がいかに大変だったかを語り始めた。

私は、その後の話はほとんど耳に入らなかった。一度きいた話ではあったが、あまりに壮大な時間スケールに感動がしばらく続いたからでもあった。関東大震災以前の出来事を、どう考えても2、3日前の話のように、なぜ私に語る必要があったのか理解できなかったが、とにかくスターウォーズとまではいわないが、壮大な時間スケールのドラマに心躍らされる思いだったのである。

 

(2002.8.31)

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