新幹線と水戸黄門を尊敬する(最終話)

<最終日・家までの道のり>
山(苗場)から下りてきて湯沢を通過し、最後の夜は国道353号線脇の草むらで寝た。ここまで来るともう寝る場所はどうでもよくなっていた。朝、犬の散歩のおじいさんが近付いてきたが、人が死んでいると思われる心配があったため、あえて動いてみせた。

今日中にゴールしたかったので、まだあたりが暗いうち(4時半位)に歩き始めた。ここから先、小さなアップダウンを含む丘陵地が続く。私はこの日5つの峠を越えることになる。朝から60km以上は歩いただろう。さすがに家の近くで野宿する気にはなれなかったので、結構つらかったが暗くなっても歩き続け、何とか家にたどり着くことができたのである。

<家族の歓迎>
どんな感動的なシーンが待っているかと思いをめぐらせながら、家の30m手前を歩いていたのだが、着いてみると家族は食事の最中だった。「あ、今日着いたのか。」という程度で誰も食卓を離れるものはいなかった。ゴールのテープがある訳でもないし、ましてや花輪をかけてくれる人もいない。家族は以外とも言えるほど冷静だった。まあ自己満足でやってるんだから当然だと自分を納得させた。

何はともあれ、無事たどりつけたこと、まともな食事にありつけたことはうれしいことだった。私は今日のメニューは何だろうという感じで、家族のそばに近寄った。しかし、食卓に2m位に迫ったところで、家族は異変に気づいたようだった。次の瞬間家族のそれぞれから次のような言葉が発せられた。

「臭い。」「近寄るな。」「まず風呂行け。」

長い旅のせいかどうも感覚が麻痺していたかも知れない。苗場の近くの清流で体を清めたつもりだったが、かなりのレベルの匂いを発していたらしい。

<ルール違反>
実は次の日、私はほとんど歩けない状態に陥ってしまった。最終日のアップダウンの激しい行程のせいだろう。足首から下がパンパンに腫れて、歩くと激痛が走りどうにも動けない状態だった。
水戸黄門をはじめとする昔の人は、目的地まで到着することが目的ではなく、そこでの用事があるはずである。もし私が昔の人なら、間違いなく目的地について何もできない、"役立たず"である。
自分の体力を見定め、行程をコントロールすることも身につけていたとは、本当に水戸黄門はすごいとますます思ったのであった。

といろいろ考えさせられる状況だったが、とりあえず朝の段階で、今日は休養日にして、旅を振り返りながらゆっくり休もうと決めた。そう思った矢先、衝撃的な事実が発覚した。私はこの旅の簡単な記録を手帳につけていたのだが、それが見当たらないのである。

かすかな記憶をたどった結果、道路のガードレールの外側で休んだ時に忘れてきた可能性が高いことが判明した。旅の記録も書いてあったし、各種の重要情報を含んだ大切な手帳であった。

またまた私は思った。「水戸黄門が忘れ物をしたら、助さんか角さんが取りに行くのかも知れないが、当然歩きとなる。私が忘れものをしたところは、遡ること一日半前の地点である。往復する必要があると3日の遅れとなってしまうのである。弥七やお銀もしくは飛猿に頼めばもうちょっと早いかもしれないが、本人しか分からない場所に忘れてきた場合は、本人が行くしかない。」私はことの重大さに、心が押し潰されそうになるのだった。

一体どうしたらいいのだ?

2時間後、私はその場所に立っていた。私の予想した場所に手帳はあった。私はほとんど歩けない状態だったが、自動車は何の問題もなく私を目的地まで運んだ。われながらかなり虚しい行為をしたものである。死ぬほど苦しい思いをして移動した道のりを、翌日車で戻ったのである。それも一日分を約一時間で。さらにこれは明らかにルール違反である。最後の最後に天国の黄門様から、「ずるいじゃないか。」と言われそうな行為である。しかし歩いてとりに行く気にはどうしてもなれなかった。
今回の旅で、ただ歩くことの大変さだけでなく、忘れ物の恐ろしさも身にしみた。「黄門様本当に恐れ入りました。」というのが本当の気持ちである。

<良かったこと>
私は、東京を出発するとき体重は75kgを超えていた。標準体重は65kg程度なのでちょっと太り気味であった。しかしゴール翌日、体重を計ると、なんと70kgをきっていたのだ。
私は、はじめの2日位は一般の飲食店で食事をしていたが、さすがに3日目位からは、店に迷惑がかかりそうで、入る勇気が無かった。そのため殆どの食事はカップラーメンやパンでしのいでいた。(田舎の方はコンビニがほとんど無かった。)
確かに運動量の割には、カロリー摂取量は少なかったか?一週間で反動なしの5kg減量は素晴らしかった。これも、旅の大きな成果の一つである。

<終わりに>
今回私の文章を最後まで読んでくださった皆さん、有難うございました。われわれは現代の常識の中で生き、現代社会や文明に守られて生活しているのだということを感じていただければ嬉しく思います。今度は歩くだけでなく、一週間電気やガスを使わない生活をしてみると良いかもしれません。私は、すぐにそのようなことをする気はありませんが、どなたかやられたら、ぜひ報告してください。

(2002.4.4)

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